父、再再婚
父の方より、父の彼女の方からよく電話がかかってきていた。
彼女は「嫁が離婚してくれないおかげで結婚できない」といつもぼやいていた。
それと「私はこどもを産めない体なので、あなたの子供をちょうだい」とずっと迫られた。
私も病気で子宮を摘出しいて、先々こどもは望めなかった。
そう伝えても、彼女は「こどもを養子に出してくれ」と言い続けた。(その理由はずっと先々に判明する。)
島での再会から半年後、父の離婚が成立、彼女(以後は義母と表記)は父と入籍した。再再婚である。
入籍して3、4カ月後、「父をしばらくの間、そちらで引き取ってくれ」と義母から電話がある。
籍を入れてまだ間もなく、義母のこの申し出に、私は少々驚いた。
父にはわるいが「親子ふたりで生活していくのが精いっぱい、それは無理。」と私は義母の申し出を断った。
それから三か月後、当時お付き合いをし始めた彼氏と私と娘の三人で、父の住む町に遊びに行った。
島での再会から三年後のことだった。
付き合って間がなかった彼は、私が父の話をした際、「久しぶりにお父さんに会わせてあげるよ!」と言って連れて行ってくれたのだった。
なかば突然のことであったが、父は大喜びであった。
父宅はまるで薬問屋のように、部屋、廊下、階段にところ狭しとサプリメントが入った段ボール箱が山積みされていた。
父は義母に促されながら、それらを大量に服用していた。
義母は施設で働く准看護師だった。
島で会った時もそうだったが、父のお腹は妊婦のようにパンパンに膨らんでいた。腹水によるものだった。
(看護を学んだ今は、これが何を意味しているのかすぐに分かる。しかし、当時の私は全く分からず、先々になって真相を知ることになる。)
庭ではゴンという柴犬を飼っていた。
父は昔から動物好きで、親とはぐれた子狸、巣から落っこちた鳥の卵…、いろいろと家に連れて帰り、一時保護したり飼ってきた思い出がある。
父はゴンを部屋に入れて膝の上に座らせ、橋渡しで自分のおかずを与えている。
「汚い!」と騒ぐ母を横目に、そうやっていた父。懐かしい風景の再現である。
夜は父宅に泊まった。
一緒に行った彼氏が席を外した際、「あの男は感心しない。お付き合いを続けるのはやめておきなさい。」と父が言った。
(父がそう言ったからでなく、結果的に、その後この彼とはお別れした。)
翌朝、父は早々に出掛けて行った。
「あと少し働いたら年金をもらえる額が増えるので働いて!と嫁に尻を叩かれて定年後も働いている」、そういって父は仕事に出掛けて行った。
父にはことごとく不評であったが、この時に父の元に連れていってくれた彼にはとても感謝している。
生きている父に会えたのは、これが最後だった。