出稼ぎ ・ 前編

おいたち, 仕事

出稼ぎ ・ 前編

Sunの 出稼ぎ 騒動 ・ 前編

離婚後、職業安定所に通い仕事を探していた。
当時はバブル期、働き手が足りない時代。職安の出口近くには無料配布の求人がワンサカと配布・掲示されていた。
ある日私はその中のひとつに目をとめた。
「大手企業で働きませんか?冷暖房完備個室!給料〇万!赴任旅費支給!」
このような仕事でお金を貯めて起業した友人が居た。
私も友人のようにひと稼ぎしよう!とチラシに書かれた面接場所へ向かった。
そこは普通のマンションの一室、「赴任旅費は企業もち、生活用品は揃っているので体ひとつでいい」、そういう説明であった。そして即採用となった。

出稼ぎの地に着いた。大きなビルに案内される。
大きなビルだが看板や社名の表記が一切ない。ちょっと違和感を感じた。
ビル横の駐車場に黒塗りの高級外車がいっぱい駐車してあった。
会社のお偉い方々に挨拶してください、ということでビルの最上階へ。
最上階はワンフロアになっておりめちゃくちゃ広い。そしてとんでもなくでかい黒い皮張りのソファー。
大股開きでソファーに座っているおじさん達に挨拶する。
葉巻を手に持たせたらマフィア映画に出てきそうなおじさんたち。
まるで任侠映画の一場面みたいな光景だった。

「ここが寝るところです」と案内された部屋は、そのビルの一室であった。
壁に沿って2段ベットが並べてありメチャクチャ狭い。
冷暖房完備個室!どころか、「タコ部屋」であった。

夜になり寝床に就く前に部屋の住人による座談会が始まった。
狭い部屋に大勢押し込まれているため、尻ひとつ分しか居場所がない。
おしくらまんじゅう状態での座談であった。

おしくらまんじゅう状態での座談会の画

北は北海道、南は沖縄と色々な所からやってきていた。
「ここに来たからといって仕事はすぐにはないんだよ。仕事が見つかるまでは待機しなければならず、その間の生活費をここから借金するんだよ」という。
「故郷に帰りたいが帰る旅費がない。借金があるためここで働き続けるしかないんです…」と口々にこぼしている。

またある人は「昨夜酒乱の夫から逃げて素足で家を飛び出し、駅でチラシを見つけて面接を受け、裸足のままここに来ました…」と話し、「雪深い地方では冬の間は仕事があまりないため出稼ぎ目的でやってきました。」という人も居た。

そして「ここを逃げ出してパチンコ店の住み込み店員になった人も結構居るよ」
…などなど、ビックリ仰天の話のオンパレードであった。

その夜、寝ようと思い布団に入るが体がチカチカして寝られない。
布団を干すような窓もないビルの一室。おそらく万年床なのだろう。
チカチカするのは大量のダニに噛み付かれ吸血されていたからだと思われ。
ほとんど一睡もできなかった…。

初日から全てが「信じられな~い」という一日だった。
それとともに「とんでない所に来てしまったのかもしれない…」という思いが頭によぎっていた。(つづきは次回 後編で)



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