少しだけ親子水入らず(おいたちより)

おいたち, 父 STORY, 父はじまり~サスペンス

前回の話はこちら

婚約破棄のあとすっかり落ち込んだ私は、お父さんに会いたいと思った。
そして思いたったように各駅停車の鈍行列車に乗り、何時間もかけて父を訪ねた。

着いてすぐ「結婚はだめになってしまった、だめにしてしまった」と伝えた。
「あの子は好青年だったからお父さんは残念だよ。それよりお前は大丈夫か?」
突然訪ねてきた私を心配に思ったのだろう。
「ゆっくり過ごすといい。夜に一緒に飲み行こう」、そう言った。
父と一緒に夜の街に飲みに行ったのは、このときが最初であり、最後であった。

婚約の報告をしに来たのはこの時よりちょうど一年くらい前のことだが、その時より父はとてもちっちゃく(小さく)見えた。歳をとったんだな~と思った。
父が小さく見えた、小さくなったのは見かけだけではない。

父は昔から煙草はずっと缶ピースを吸っていたが、マイルドセブン1mgに変わっていた。
うちではいつも星一徹やバカボンパパみたいなパッチ姿であったが、今度のうちではちゃんと服を着ている。パッチの方が風格があり大きく見えていたので小さく見えた。しかしこれはあくまでも私の主観だ。

パッチの話は別として、以前はいかにも家長という風格があったが、今やその面影は全くなくなっていた。父はちっちゃいおじさん、になっていた。(ちなみに兵庫県尼崎市非公認ご当地キャラクターは「ちっちゃいおっさん」である。)

アルマイトの灰皿の画像父宅の灰皿は飯場や大衆食堂でよくみかけるアルマイトの灰皿だった。一般家庭ではあまり見かけない。
灰皿を見て目を白黒させている私に父嫁(以下嫁と略)が「一度灰皿で殴られたので、うちではこれしか置かないことにしてあります」と言った。

灰皿で殴った父は確かに悪い。
しかし客人の前でもこの灰皿というのはいかがなものか。
母なら「お父さんに格好悪い思いをさせないように」とちゃんとした灰皿を用意しただろう。
その昔、母はあなたに「殴られますよ」とちゃんと説明をしていたではないか。私はそんなことを思い出していた。

しばらくして、嫁が私の目の前に子供二人を連れて来た。そして「この人はあなたのお姉さんよ。これから先、あなたたちに困ったことがあったら、真っ先にこのお姉ちゃんを訪ねて頼るのよ」と言っている。そして「これにあなたの住所と電話番号を書いて」と紙とボールペンを渡された。
なんだか寒気がした。背筋がゾ~ッとしてとトリハダが立った。

確かに戸籍上はきょうだいだが、上の子とは血のつながりはない。
下の子は大きくなっていたが父に似てないどころか、嫁の前夫と瓜ふたつだ。
家庭を壊した女性の子供に先々頼って来られてもこちらとしては困る。それが正直な気持ちだった。

ちなみに、戸籍謄本では私は父と母の間に生まれた「長女」、上の子は父と養子縁組をした「長女」、下の子は父と嫁の間に生まれた「長女」と記載されている。
ひとつの戸籍の中に長女が3人いるという少々レアな戸籍だ。(日本の戸籍制度はおかしな制度だとつくづく思う。)

帰る時、父が車を運転し駅まで送ってくれ、少しだけ親子水入らずで話が出来た。
お父さんは「お母さんのことが本当に大好きだった、今でも好きでお母さんにヨリを戻してもらえないかと会いに行ったけど、お母さんから「帰れ!」と言われて帰ったんだ」と話してくれた。母からはそんなことがあったとは聞いていなかった。
そして「おばはん(嫁)には騙された…」とずっとこぼしていた。

お父さん大丈夫かな?
ちょっと心配に思った。
(この予感はその後まもなくして的中する。)

帰りの列車はお父さんが特急券を買ってくれた。
婚約破棄後で傷心で出掛けたが、行きの鈍行列車と帰りの特急ではちょっとしたプチ旅行気分も味わえた。
お父さんとも話が出来たし良かった。(つづきは次回)

車窓からの田園風景
(Photo by photoAC)