Sunのすべらない話(すべるかも)
前回の話はこちら
長き入院生活の末、無事出産し退院した。
自宅に帰ると部屋は床から1メートルくらいの高さまでゴミ袋とゴミで埋もれ、我が家がゴミ集積場と化していた。
かろうじて子供はベビーベッドに寝かせることができたが、私は座る場所も寝る場所もない。丸一日掃除してやっと自分の居場所と寝場所を確保。
夫がこの家で生活していなかったことは一目瞭然であった。
しかしある程度、予測はついていた。
夫はナースや同室ママ達の「優しいご主人ですね!」「素敵なご主人ですね!」に鼻の下をのばしきり、病院には毎日欠かさずやって来た。
「仲が良いご夫婦ですね」と言われていたが、実際は、夫は結婚直後から家にはほとんど帰ってくることがなく、うちで一緒に食事を摂ったり、一緒に過ごしたのは結婚してからだと数えるほどしかなかった。
入院中は自宅や夫の携帯に連絡をいれてきたが、電話がつながったことはただの一度もなかった。それが真実であった。
退院後も夫は家に帰ってくることはほとんどなく、たまに帰ってきたかと思うとぱんつをおニューのぱんつに履き替え、またすぐに出かけて行った。
あくまでぱんつを履き替えるための帰宅、子どもの顔を見ることすらなかった。
私は夫のおニューのぱんつを捨ててみた。
まもなくすると夫は全く帰ってこなくなった。
…ある日、ポストに国民健康保険料の督促状が届く。
その督促状の世帯主名のところが私の名前になっている。
私はその督促状をもって役所に行き、「私、世帯主じゃありません。夫が世帯主です。これ間違っています。」と窓口に申し出た。
しばらくすると「夫の〇〇さんが住民異動されています。この場合は、自動的にあなたが世帯主になります。」と説明される。
え?!自動的に…、って何じゃそりゃ?
将棋じゃないが、私は「成り上がった」というわけだ。
いや、それよりも、知らない間に
『夫が住民票を異動している』
というではないか。
いったい夫は今どこに?!
離婚するにしても何をするにしても、まず夫の居場所がわからないことには何もできない。
そこで役所の人に「夫の現住所(居場所)を教えてください!」と申し出る。
するとここで思わぬ返事が返ってきた。
私が役所に行ったのは4月であったのだが、この年の4月1日から個人情報保護法が施行されており、「いかなる場合であっても個人の情報を開示することは出来ない。従ってあなたの夫の住所を教えることは出来ない。」というのである。
「戸籍上の夫婦なんですよ。私は妻なんですよ!」と訴えるも、「たとえ奥さんでも駄目です!!」とのこと。
3月31日なら教えられたけど、法律だから4月1日以降は何がなんでも駄目!教えられない、ということであった。
結婚し直後に妊娠、直後に入院、退院して間もなく夫は行方知れず…。
おまけに「個人情報保護法」、ときた。
これはもう完全に「お笑い」の域である。
「すべらない話」である。
我が事ながらおもろすぎ。笑うよりほかなかった。
知り合いや私の家族から「夫を見かけた!」という情報が頻繁に届いた。
同じまちに居ることは間違いない。
夫から聞いていた夫の職業と職場は偽りであった。
個人情報保護法という法律の壁のもと、夫の居場所は分からずままだった。
退院後、生活費は一銭も入れてもらえていなかった。
幸い、生命保険の入院給付金を受け取っていたので生活はそれでまかなえた。
生命保険に加入しておいてよかった。本当に助かった。
それにしても「あの男は結婚しても家庭に落ち着くタイプではない」という皆の見当は正しかった。
コーヒー屋のマスターが語っていたろくでなしの●●、は正真正銘のろくでなしであったのだった。(つづきはまた)