「 母の 骨折 」
度重なる母の 骨折
うちの母はここ近年、半年から一年に一度の頻度で 骨折 している。
右足、左足、右手、左手…、どの回においても、あわてて駆け出したりした際にコケて…、の骨折である。
三回目の骨折は、私が看護学校の学生であった時のことだった。
その日、母から「ちょっと転んじゃったんだけど、骨が折れてるみたい。今から来てくれる?」と電話があった。
現場に行くと、腕を抱えるようにしながら母は地べたに座り込んでいる。
その母の腕(手首)をひと目見て驚いた。
ちょうど2、3日前、授業で『コーレス骨折』(=橈骨遠位端骨折:とうこつえんいたんこっせつ)というのを習った。
教科書には写真や図はなく、「転んだ時に手を地面についた際によくみられる、女性やお年寄りに多い骨折である。フォークをさかさまに置いたような形である。」と文字で書かれていた。
フォークをさかさまに置いたような形???
頭の中で想像してみたが、う~ん、イメージが浮かばない。
一体どんな形なんだ?!
分からずままであった。…
母の腕は、まさにフォークをさかさまにした形、そのものであった。
「あっ!コーレス骨折だ!!」
まるでお手本になるようなコーレス骨折であった。
「いやいや、感動している場合じゃない。」
しかし、タイミングが良すぎ。
痛がっている母には悪いが、笑いさえこみ上げてきてしまう。
すぐに病院に連れて行き、教科書通りの治療(手術によりプレートで骨を固定)とあいなった。
先にも書いたが、コーレス骨折は女性(とくに中年以降)に多くみられる。
女性はホルモンの関係で骨粗しょう症(骨がスカスカになる)になりやすく骨折しやすいが、要因はそれだけだろうか。
もしかしたら、女性はお腹やお尻を守ろうとする本能があるのかもしれない。
それで、転んだ時にとっさに手が先に出てしまうのかもしれない。
そういえば
高校生の時、体育の授業で柔道の『受け身』を教わった。
「受け身は将来かならず役に立つ!特に女子はちゃんと習得しとくと良い。」と柔道部の顧問をやっている担任先生は言った。
女性は転んだ時に地面に手をつくことが多い、それは危ない。受け身を習得すれば、とっさのときに自然と身を丸めて転がるので安全だ、ということだった。
それから十数年以上経たある日、
私はバスから降りる際、タラップで足を踏み外し、飛ぶようにして頭から地面に転がり落ちた。
その時、昔覚えた「受け身」のおかげで助かった。
周囲の目撃者の話によると、私は体をまんまるく丸めて地面をコロコロっと回転し、まるでJAC(ジャック:ジャパンアクションクラブ)のスタントみたいにして立ち上がったそうである。
そんなに凄い事をしていたとは全く気付かず、立ち上がった瞬間は恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がなかった。
ところが周囲から「かっこいい~!」「すご~い!」と称賛を浴びた。
とっさのことで覚えがないが、体が自然とそう動いていた。(ちなみに私は運動オンチな方である。)
柔道の受け身は怪我を防止するための技だが、受け身を覚えれば日常の生活でも怪我を防止することができる。ご参考までに
少し話がそれてしまった。
さて母だが、コーレス骨折から半年後に、またやらかしてくれた。
コーレス骨折した方の腕をまた折った。今度は『複雑骨折』だった。
これも授業で習ったが、複雑骨折は『粉砕骨折』と勘違いされていることが多い。(私もそれまで勘違いしていた。)
複雑骨折とは、折れた骨が皮膚組織を突き破り組織を損傷している骨折である。(右図①)
複雑骨折と勘違いされやすい、骨がバラバラに(3片以上に)なった骨折は、粉砕骨折という。(右図②:4片の粉砕骨折)
複雑骨折で骨が皮膚を突き破り体外に出てきている場合、外界の菌にさらされて感染のおそれがある。感染は生命をおびやかす危険があり、一刻も早い手術が必要となる。(このとき母はこの状態であった。)
このようなことから、
皮膚を突き破って早急に対応が必要な骨折を「解放骨折」(または複雑骨折)、
骨が体内にとどまっている普通の骨折を「閉鎖骨折」(または単純骨折)、
と治療上の違いによっても区別する。(①は解放骨折、②は閉鎖(単純)骨折である。)
今回は母の全ての骨折まで書ききれなかったが、うちの母は、
整形外科の教科書の内容を、次から次に見事なまでに再現してくれた。
今度は一体どこを折った?今度は何骨折?
もはやそんな余裕さえ出てきた私なのであった。