大事な話
亡くなった日の夜、葬儀場の親族待合室に父は寝かされていた。
その横で、酒をいくらか飲んで酔った義母が色々なことを口走った。
義母はまず、「お父さんにはあとほん少しだけ頑張って欲しかったのだけど、死ぬのがほんのちょっとだけ早かった」と言った。
それから「(父の主治医は)今までよくしてくれたけど、一箇所だけミスがあった。」と言った。
その次に「お父さんが入院した日、お父さんと一緒に住宅展示場に家を見に行った。その時に見た家を購入するつもりだ。」と言った。
「その家はここから(葬儀場から)少し東に行って、道路を右側に入ったところにあって、袋小路になった所にある家だ。」と言った。
私はこの時点では義母に対し、まだ何の疑いも持っていなかった。
これまでずっと父のそばに居て、父の面倒をみてくれていたありがたい人だと思っていた。
だから家を購入するという話を聞いても、何も疑うこともなかった。
ただ、酔って色々しゃべっている義母の様子が、なんだかとても嬉しそうで、それに少し違和感を感じた瞬間はあった。
雪による通行止めで四国に帰れなくなったので、父宅に泊まって遺品の整理が出来る、と思ったが甘かった。
「家は散らかっているので来てもらうわけにはいかない。ホテルで泊まって。」と言われ、私たちは空きホテルを必死で探し、そこに泊まった。
四国に帰る時、義母が「大事な話がある」と言い、義母が提示したファミリーレストランで話を聞いた。
父のお骨箱を持参の義母。ファミレスのテーブルの上にお骨箱を置いての話であった。(お骨は車に置いておけばいいのに…、と正直思った。)
話は、父が死んだことを「父の親族、前妻、子、知り合い、周囲の人、誰一人にも一切伝えるな。それがお父さんの遺言だ。」ということの念押しと、本題は「あなたたちに書いてもらわなければならない書類がある」というものだった。
「後日その書類を送るから、届いたらそれに署名、押印してすぐに送り返すように。」ということであった。
「一体何の書類ですか?」と聞いても、「届いたら中を見れば分かる」と答え、義母はそれが何の書類なのかは一切明かさなかった。(つづく)