ちょっとした手助け(おいたちより)

前回の話はこちら
(タクシードライバーになったきっかけ、タクシー仕事について綴っています。)

雨上がりの路上で見かけた光景からひらめき、タクシードライバーになり、それから数年過ぎた。
渡瀬恒彦さんのドラマ(タクシードライバーの推理日誌)じゃないが、タクシーの仕事はお客さんを乗せた瞬間からドラマが始まる。
そして降車時に「ありがとう」とニコニコと降車されていくお客さんを見届け、ありがたい気持ちでいっぱいになる。
そんなタクシーの仕事が大好きだった。

平日の昼間の時間帯はお子さん連れの親子(母子)がタクシーを利用されることが結構ある。
ベビーカーや授乳用品など荷物を持っての移動である。
休日は夫に手伝ってもらえるが、母子のみで移動となると色々大変だ。
ずっとひとりで子育てをしてきたこともあり、その大変さはよく分かっていた。

こどもの乳児検診で出かけた時も、まだ首がすわっていない子どもを抱きかかえながら下駄箱で靴の脱ぎ履きをするのでさえ大変だった。
heart-warming
そんなとき、近くに居た人が「どうぞ」と靴を下駄箱から取り出してくれた。
ちょっとした手助けがとてもありがたかった。
心がほんわかあたたかくなった。
靴の脱ぎ履きに限らず、行く先々でちょっとした手助けにふれる機会があり、感謝することが多々あった。

自分のこどもの手が離れてきたとき、
これまでに誰かにしてもらって嬉しかったこと、助かったことを、私もまた誰かにしてあげよう、そう思っていた。
タクシーの仕事では、その機会がたくさんあった。

親子連れのお客さんだと玄関先までベビーカーを押して行って、母親がバッグの中から家の鍵を取り出し鍵を開けるまで赤ちゃんをみていてあげたり、etc、…
ほんの些細なことであるが、私自身が「ありがたかった」「本当に助かった」と思えたこと、それらをタクシーの仕事の中に織り込んでいった。

ある日のこと、勤めていたタクシー会社社長から「会社の売り上げを上げるための策を考えてくれ」と依頼される。
しかし、「近距離客には冷たい」など世間がタクシーに抱いているイメージや、違法な給与体系が変わらないことには売上アップは難しいと思われた。

完全歩合制のもとでは、二時間ちょっと客待ちをしてやっと乗車したお客さんがワンメーターであった場合、ドライバーの収入は時給換算で百円台である。ドライバーにとってこれは死活問題で、そのためお客さんに露骨な態度を取るドライバーもいる。
違法な完全歩合制がなくならない限り、「わざわざお金を払ってでもタクシーに乗ろう」という人が増えることはないだろう。

私は給与体系の見直しを行うことを条件とし、売上アップ案を社長に提示した。
案は子育て支援のNPO法人とコラボを組み、子育てを支援するタクシーを走らせる、NPO法人とコラボを組むことで会社の宣伝にもなる、というものであった。
なによりも私が願っていたことは、会社の売上アップはもちろんのことだが、世間やタクシー界において、ちょっとした手助けが当たり前のことのようになってほしい、ということであった。
それは私がタクシーの仕事を始めたきっかけでもあった。

ドライバーには運転業務以外にサービス提供の業務、それに要する時間が発生する。そのため、その分の時間給or手当をつける、ということを条件に提案した。

社長は私の案を採択した。
コラボを組んでもらえるであろうNPO団体はあらかじめ調べてあった。
私はその団体の連絡先を社長に伝え、次のステップに向けてアクションをとるようお願いしたのであった。
(次回につづく)