突然の解雇

仕事

-前回の「ちょっとした手助け」のあらまし-
勤務するタクシー会社社長から、会社の売上をアップする案を求められ、私は、ある案を会社に提示した。

提示した案の実現と継続には、ドライバーの給与体系の見直しが必須であった。そのため給与の見直しをも条件に含めたものであった。

それから間もなく、夏のボーナス支給日の前日のことだった。

setback
(Illust by Illust AC)

朝出社すると私のタイムカードがなくなっていた。
私の事務机の引き出しの中が空っぽになっていた。
しばらくすると社長室に呼び出された。
「明日から来なくていいから。仮に出社しても給料は出しませんから。」
そう告げられた。解雇、であった。

そのあと、号泣しながら車を運転して帰宅したのは覚えている。
おそらく半狂乱の状態だったのではないかと思う。

突然解雇された翌日、テレビから「あたらしいタクシーの試験運行が今日から開始」というニュースが流れてきた。
あたらしいタクシーはささやかな手助けではなく、経済貧富の差により利用できる人もいれば、利用できない人も出てくるであろうものだった。
商標登録によってそれはフランチャイズ展開されていった。
ドライバーの給与はこれまで通り、仕事だけ増えた、と元同僚から聞いた。
なぜ私を解雇したのか、おのずとして分かった。
あたらしいタクシーはその後も新聞やマスコミで大いに取り上げられた。
「ささやかな手助け」という想いは伝えられないまま、その報道を見るたびに私は涙した。

会社からはボーナスはおろか、解雇予告手当(解雇の30日前に予告をしなかった場合、企業は30日分以上の平均賃金を支払う義務がある)も支払われなかった。
労働基準局に行き相談したが、今後会社を是正することは出来ても罰することはできない、ということだった。
民事で争うしか方法はない、ということだった。
裁判しましょう、と労働者を応援する組織から声をかけられたが何年もかかると聞いて諦めた。

突然の解雇後、私は人間不信に陥った。
人前でうまく話せなくなってどもるようになってしまった。
何もかもの自信を失っていた。
解雇された会社に通じる道路を車で走行すると嘔吐した。
外出が出来なくなった。しばらく社会に出られなくなってしまった。
引きこもりになってしまった。

それから一年ちょっと経て、このままではいけない!と思い始めた。
今の自分に出来ることは何?
何から始めればいい?
そんな思いがぐるぐる頭を回った。

そんな時、二種免許取得時にお世話になった恩師が「中型自動車免許がもうすぐ新設される。今のうちに大型自動車二種免許を取っておかないか?」と声をかけてくれた。
二種免許を取得しているものの、はっきり言って運転は下手くそな部類である。しかし、
とりあえず挑戦してみよう、と決心した。
とにかく何か始めないと…、そんな思いだった。

外出もままならなかった日々が、自動車教習所に通う日々に変わった。
大型二種免許を取得した。
全く失っていた自信を少し取り戻せたような気がした。
でも、まだ社会復帰は無理だった。

そのまま、大型特殊、牽引、…他の免許を取得していった。
全ての車両免許を取り終える頃、ずっと忘れてしまっていた達成感を感じることが出来た。
自信が少しづつ取り戻せてきたように感じた。
大好きだったタクシーの仕事はトラウマがあって戻ることができなかった。
しかし将来、いつかまた戻りたいと思った。

取得した免許を生かし、非正規雇用ではあったが、とりあえず検診バスの運転手として社会復帰した。

解雇された会社は創業30年以上の会社であった。
先代社長亡き後、私を解雇した社長が継いだのだが、解雇から二年もたたずうちに会社は潰れることとなった。

商売にはハートが必要だ。
つくづくそう思えた。
(注意:解雇は勤務していた会社社長の一存によるものであり、記事内容は現存している組織団体とは無関係です。)



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